DESで税理士法人が損害賠償請求3億円超

都内の税理士法人がクライアントから3.3億円の損害賠償請求を受け、東京地裁はその全額の支払いを命じる判決を下した件について、本日届いた「税のしるべ」(平成28年6月13日号)に具体的な内容が記載されていました。

東京地裁が税理士法人に3億2900万円の損害賠償を命じる、相続税対策でDES方式の説明義務を怠る

最初の報道では「相続対策で法人に課税が生じ~」とのことだったので、不動産の譲渡などをイメージしていたのですが、まさかDESで課税された案件とは驚きでした。
原則、会計処理上は債権の券面額で資本金の増加を認識するため、PLに影響はありませんが、税務上は債権を時価評価する必要があるので、債務超過の法人や自己資本が乏しい法人の場合は理論上は債務消滅益が生じることとなります。
また、一方で債権を現物出資した側からすれば、債券の譲渡損となり、法人の場合は寄附金課税がなされることがあります。

借入金が100で、現物出資債権の評価が20の場合
(会計上の仕訳)
借入金 100 / 資本金 100
(税務上の仕訳)
自己宛貸付金 20 / 資本金等の額 20
借入金 100 / 自己宛貸付金 20
/ 債務消滅益 80 → 申告加算

以前、司法書士さんから「会計士さんのアドバイスで役員借入を資本金にする案件をよくやっている」と聞いたことがあったんですが、大丈夫なんだろうかと心配になったことがありました。
裁判では被告税理士法人が課税リスクに関して一定の説明をしたと主張していますが、実はよくわかっていなかったというのが本当なのではないかと思ってしまいます。
DESについては会社再建などの経済的理由の中で行われるもの(会社更生等の場合は欠損金の損金算入ができる)であり、相続対策では使えずらいとう認識ですし、出資を受ける側にもする側にも課税リスクのある行為ですから、入念な検討が必要であると言えます。
また、本件については税理士賠償責任保険の対象外となると思われ2011年ごろなので事前相談特約の適用もないと思われます。
税理士法人は無限責任ですから、その全額の賠償責任を負うわけなので、改めて税理士業のリスクというものを考えさせられます。

<判決の概要>
(関係者)
A ← 被相続人(相続税対策をXに依頼)
B ← Aが代表だった法人(原告)
I ← 税理士法人(被告)
X ← 税理士法人(Xとは関連なし)/Aの相続税申告書を作成

(経緯)
・被相続人Aは税理士法人Iに、AのBに対する貸付金の相続税対策を依頼
・税理士法人Iは、DESを提案
・Bは税理士法人Yに被相続人Aの相続税申告を依頼
・税理士法人Yの指摘でDESによる債務消滅益が計上される旨を指摘される
・債務消滅益が生じる旨を税理士法人Iに伝える
・税理士法人IはDESはなかったものとして申告することを提案し、その前提で確定申告書を提出
・その後、法人Bは債務消滅益を前提とする修正申告書を提出
・法人Bは税理士法人Iに損害賠償請求

(主な争点)
・被告はDESに係る説明義務を怠ったが否か

(原告の主張)
・被告はDESに関する税務知識を欠いており、なんら説明もなかった

(被告の主張)
・一定の説明はした

(裁判所の判断)
・DESにより生じる課税リスクを説明する義務があった。
・提案書には課税リスクの記載は一切なし
・何ら説明がなかったことを強く推認され、試算すらしていなかったのではないかと推察

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